政府が本格導入を目指す学校でのデジタル教科書ですがそれによる影響はどのようなものがあるのでしょうか。さらに学力低下はある?などをご紹介します。
デジタル教科書とは?いつから導入?
文部科学省が2021年6月に公表した「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」第1次報告において
「GIGAスクール構想の実現を通じ~中略~今後、次の小学校用教科書の改訂時期である令和6年度(2024年度)を、デジタル教科書を本格的に導入する最初の契機として捉える」
と記載され2024年度からの導入に向けて準備がされています。
この構想にそって政府は小中学校におけるパソコン端末の1人1台の配布を目指す「GIGAスクール構想」を推進しており、新型コロナウイルスによる臨時休校が長引いた中で文科省は整備を前倒して2021年3月までに97・6%の自治体が児童生徒の手元に端末を行き渡らせました。
そもそもデジタル教科書とは?
PCやネットワーク・アプリ・ソフトなどのあらゆるデジタル技術を使って実現される学習教材。
生徒はタッチパネルや無線LAN機能を装備したコンピューターを紙媒体の教科書代わりに利用。生徒一人一人のコンピューターと、黒板代わりの「電子黒板」がネットワークで接続され、生徒側で書き込まれた情報を電子黒板に表示できるなど、相互の情報を共有しながら授業を進めていくことができる。
デジタル教科書導入への反応
読売新聞が実施したアンケートによるとデジタル教科書への全面移行に疑問や懸念を持つ懸念を抱く学校関係者の数が9割近くに上ることがわかりました。
具体的な意見としては以下のようなものがあります。
デジタルもアナログも両方大事。「どちらかしか使えない」ではなく「どちらでも使用可能」にしておくことが必要でしょう。
変化があるなら「懸念がまったくない」ということは少ないのだからそのこと自体を問題視する必要はない。導入メリットがあることは確かなのでコストやメリット・デメリットを考え合わせながら進むというのは至極当たり前の話。
関連機器は常に最新のものを使用しないと意味がない場合もあります。そういう費用はどうなのでしょうか?教科書については無償配布なのに教科書から移行するタブレットは有償というのは変な話です。あと字を書く機会がますますなくなってしまうという事は心配でもあります。
紙の教科書の良い点は複数の教科書を一度に確認できるところ。タブレットだとなかなかそういう使い方ができない
鉛筆や紙を使って学習すること、つまり視覚以外の感覚を使うことで学習効果は増大します。例えば筆圧だったり消しゴムで紙が破れてしまったりする経験は重要です。
デジタル教科書のメリット
- 拡大表示が容易にできる
- 動画や音声の再生も簡単
- データなどの書込や保存ができる
- 学習を記録して生徒別の学力分析などに利用できる
デジタル教科書のデメリット
- 端末画面への集中で目が疲れ視力低下の原因になりかねない
- セキュリティ管理に問題がある
- 壊れた場合の対応はどうなるか
文部科学省による実証研究報告においては、デジタル教科書による大きなデメリットはないとしているものの、次のような意見も指摘されています。
デジタル教科書を使った授業ではどうしても手元の画面のほうに子どもの集中がいってしまう、他の人の考えを聞くときや教師に注目してほしい時には切り替えが大事
細かいメリット・デメリットをあげればキリがないでしょうが、実際の学校現場でないとわからない、こういった「生の声」を今後どう生かしていくかが大事なのでしょう。
デジタル教科書で学力低下はある?
このデジタル教科書化に対する主な懸念事項としては、学力低下が進んでしまうのでは?
という点があります。
そもそも人材育成のために何より必要な読解力や論理的思考力といった基礎学力が日本の子供達の大半には十分身についていないので、まずはそのような基礎から教育をしないと効果は上がらない、という指摘も多いようです。
例えば、あのAmazonではジェフ・べゾスCEOの意向により、社内でのパワーポイントの使用を禁止していることが報じられています。
さらに会議資料もきちんと文章形式で書くことが求められているそうです。デジタル機器は便利ですが、その使用が思考の妨げになって本質的な理解に繋がるとは限らない、というのがその考え方のようです。
あと、この分野で先行する諸外国ではどうなのでしょうか。
こんな記事があります。
また97%の学校に光ファイバーが引かれ、88%に無線LAN環境が整備されている(2017年)アメリカの場合は
ニュージャージー州モンロー・タウンシップ高校を対象とした調査では、iPadでのデジタル教科書を使用した生徒は、紙の教科書を使用した生徒よりも成績がよく、学習へのモ
チベーションも低下しなかったという結果が得られている。
【引用:諸外国におけるデジタル教科書・教材の使用状況について】
諸問題もあるデジタル教科書の導入問題ですが、利害関係や立場ごとの意見の違いが生じるのは当然でしょう。
細かいことはさておき、資源はなく『人の育成』が国力の源である日本において、その基盤となる教育については、根本的な議論が求められるのではないでしょうか。