共同親権の導入によって日本の親子関係や、その他の状況はどのように変わるのでしょうか？
そんなあなたの疑問にお答えします。
日本の親権制度
日本の離婚制度では、原則として離婚後の子どもの親権は、夫婦の一方にのみ認められます。これは単独親権制度と呼ばれ、一般的には母親が親権者となることが多いです。
単独親権制度では、親権者となった親が、子どもの養育や教育に関するすべての権利と義務を負います。一方、親権者ではない親は、面会交流権と呼ばれる権利を持ち、子どもと定期的に会うことができます。
共同親権が導入される背景と国内外の法制度比較
近年、欧米諸国を中心に、離婚後の子どもが両親双方から養育を受ける「共同親権制度」が導入されています。共同親権制度では、両親が離婚後も共同して子どもの親権を持ち、養育や教育に関わる責任を分担します。
共同親権制度導入の背景には、単独親権制度における問題点が指摘されています。例えば
- 親権者となった親が子どもを連れ去ってしまう「連れ去り婚」
- 面会交流がうまくいかないケース
- 親権者ではない親が子どもと関わる機会が少ない
といった問題です。
共同親権制度は、これらの問題点を解消し、子どもの健全な成長をサポートするために導入されています。
国内外の法制度比較では、共同親権制度を完全に導入している国もあれば、一定の条件下で共同親権を選択できる国もあります。
- 完全な共同親権：フランス、スウェーデン、フィンランドなど
- 条件付き共同親権：ドイツ、イギリス、アメリカなど
日本も2024年3月に法改正を行い、2026年から共同親権制度を導入することが決まりました。
共同親権導入のメリットとデメリット
共同親権制度には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
- 親と子の関係強化の可能性: 両親が子どもの養育に関わることで、子どもとの関係が深まり、健全な成長をサポートできる可能性があります。
- 経済的負担軽減: 養育費を両親で分担することで、経済的な負担を軽減できる可能性があります。
- 子どもにとっての選択肢拡大: 子どもにとって、両親双方との関わりを持つ選択肢が広がります。
デメリット
- 両親間の合意形成の困難さ: 離婚後も両親が協力して共同親権を行うためには、合意形成が重要となります。しかし、離婚という状況下では、合意形成が困難な場合もあります。
- 子どもへの負担増加: 両親の家を行き来するなど、子どもへの負担が増加する可能性があります。
- DV被害者への影響: DV被害者が共同親権を選択した場合、被害が継続する可能性があります。
共同親権導入の注意点
共同親権制度は、子どもの健全な成長をサポートするために有効な制度ですが、導入にあたっては、以下のような点に注意する必要があります。
- DV被害者への配慮: DV被害者が共同親権を選択した場合、被害が継続する可能性があります。そのため、DV被害者への支援体制を充実させる必要があります。
- 子どもへの負担軽減: 子どもへの負担が増加しないよう、子どもの意見を尊重した制度設計が必要です。
- 両親間の合意形成の支援: 離婚後も両親が協力して共同親権を行うためには、合意形成を支援する体制が必要です。
共同親権の法改正の背景と議論
共同親権を取り巻く社会的・法的問題
近年、日本の離婚件数は増加傾向にあり、2021年には約8万組の夫婦が離婚しました。離婚後の親権は、原則としてどちらか一方の親にのみ与えられる「単独親権」制度が採用されています。しかし、単独親権制度は、離婚した親の一方が子どもと離れて暮らすことになるため、親子関係の断絶や養育費問題など、様々な課題を抱えています。
こうした課題を解決するために、近年注目を集めているのが「共同親権」制度です。共同親権とは、離婚後も両親が共同して子どもの親権を持つ制度です。欧米諸国ではすでに広く導入されており、日本でも法改正に向けた議論が進んでいます。
しかし、共同親権導入には、以下のような社会的・法的問題も指摘されています。
- DV被害者への影響: 共同親権によって、DV被害者が加害者と共同で親権を持つことを余儀なくされる可能性があります。
- 子どもへの負担: 共同親権によって、子どもが両親の間で板挟みにされる可能性があります。
- 親同士の合意形成: 共同親権を円滑に機能させるためには、親同士の合意形成が不可欠です。しかし、離婚直後の夫婦間では合意形成が困難な場合も多くあります。
- 家庭裁判所の負担増加: 共同親権導入によって、家庭裁判所の負担が増加する可能性があります。
改正案の概要と政府の立場
2024年1月30日、法制審議会は民法改正の要綱案をまとめました。要綱案では、離婚後も両親が共同して子どもの親権を持つ「共同親権」制度の導入を柱としています。
共同親権制度の詳細については、以下の通りです。
- 父母は離婚後も共同して親権を持つ。
- 父母の協議で共同親権か単独親権を選択できる。
- 協議がまとまらない場合は、家庭裁判所が判断する。
- DVや虐待などの特別な事情がある場合は、単独親権を選択することができる。
政府は、共同親権制度の導入によって、子どもが両親と継続的に関わりを持ち、健全に成長できる環境を整備することができると期待しています。
共同親権に反対している政党や議員
共同親権制度の導入には、自民党の一部議員や、公明党、日本維新の会など、いくつかの政党や議員が反対しています。
反対意見としては、以下のようなものが挙げられます。
- DV被害者への影響が懸念される。
- 子どもへの負担が大きすぎる。
- 親同士の合意形成が困難な場合が多い。
- 家庭裁判所の負担が増加する。
子どもの権利と国際的視点
子どもの権利に関する国際条約である「児童の権利に関する条約」では、子どもの最善の利益を尊重することが求められています。共同親権制度は、子どもが両親と継続的に関わりを持ち、健全に成長できる環境を整備するという意味で、子どもの権利を尊重する制度と言えるでしょう。
実際、欧米諸国ではすでに多くの国で共同親権制度が導入されており、その効果が検証されています。例えば、スウェーデンでは、共同親権制度導入後、親子関係の断絶や養育費問題などが減少したという調査結果があります。
共同親権の影響と実例
他国の事例とその教訓
共同親権制度は、欧米諸国を中心に多くの国で導入されています。それぞれの国では、独自の制度設計や運用方法があり、その影響も様々です。以下では、代表的な3つの国の事例とその教訓をご紹介します。
- フランス
フランスでは、1975年に共同親権制度が導入されました。制度導入当初は、子どもの養育を巡る父母間の紛争が増加するなど、課題も指摘されました。しかし、その後、共同親権に関する法整備や支援体制の充実が進められ、現在では国民の認知度も高く、広く受け入れられています。
教訓
- 共同親権制度を成功させるためには、法整備だけでなく、支援体制の充実も重要である。
- 父母間のコミュニケーションや協力体制を促進するための支援が必要である。
- スウェーデン
スウェーデンでは、1979年に共同親権制度が導入されました。スウェーデンでは、離婚後も父母が共同で子どもの養育に関わるのが一般的であり、共同親権制度は社会に定着しています。また、政府は、共同親権に関する情報提供や相談支援など、様々な支援制度を設けています。
教訓
- 政府による積極的な支援が、共同親権制度の定着に貢献する。
- 子どもの最善の利益を第一に考える意識が重要である。
- イギリス
イギリスでは、1991年に共同親権制度が導入されました。イギリスでは、共同親権制度を選択する夫婦と、単独親権制度を選択する夫婦がほぼ半々という状況です。共同親権制度を選択した夫婦の中には、子どもの養育を巡って問題が生じるケースもあり、課題も指摘されています。
教訓
- 共同親権制度は、夫婦双方の合意に基づいて選択することが重要である。
- 共同親権制度を選択した夫婦に対するサポート体制が必要である。
日本における予測される変化
日本における共同親権導入の影響は、まだ未知数です。しかし、欧米諸国の事例を参考に、以下のような変化が予測されます。
- 父母間のコミュニケーションの活性化
共同親権制度の下では、父母が子どもの養育について話し合い、協力することが求められます。そのため、父母間のコミュニケーションが活性化することが期待されます。
- 子どもの健全な成長
父母双方が子どもの養育に関わることで、子どもは安定した環境で育つことができ、健全な成長に繋がると考えられます。
- 養育費問題の解決
共同親権制度の下では、養育費の負担を父母が共同で負うことが原則となります。そのため、養育費問題の解決に繋がる可能性があります。
- 離婚後のトラブルの減少
共同親権制度の下では、離婚後も父母が子どもの養育に関わるため、離婚後のトラブルが減少することが期待されます。
一方、課題も存在します。
- 父母間の対立激化
共同親権制度の下では、父母間の意見が対立した場合、解決が難しくなる可能性があります。
- DV被害者への配慮
DV被害者が共同親権を選択した場合、子どもの安全が確保されない可能性があります。
これらの課題を克服するためには、
- 共同親権に関する理解促進
- 父母間のコミュニケーション支援
- DV被害者への支援体制の充実
などが重要となります。
共同親権制度は、子どもにとってより良い環境を築くための制度として期待されています。しかし、制度導入によって様々な変化が生じることも予想されます。関係者による議論を深め、課題を克服しながら、制度を円滑に施行していくことが重要です。
共同親権導入の注意点
DV問題と子どもへの影響
共同親権導入にあたって、特に懸念されているのがDV問題です。離婚後に共同親権となった場合、DV加害者と被害者が共同で子育てを行うことになり、子どもが再度DVの被害を受けるリスクが高まる可能性があります。
厚生労働省の調査によると、離婚後にDV被害を受けたことがある女性は約10人に1人、約35万人に上ると推計されています。また、DV被害を受けた子どもの数は約40万人に達すると考えられています。
DV被害を受けた子どもは、心身に深い傷を負い、PTSD（心的外傷性ストレス障害）などの精神疾患を発症するリスクも高くなります。さらに、DV家庭で育った子どもは、将来的に自分もDV加害者になるリスクや、DV被害を受けやすいリスクも高くなります。
共同親権導入にあたっては、DV被害者と子どもへの安全確保を最優先に考える必要があります。DV加害者に対して厳格な対応を行い、被害者が安心して生活できる環境を整備することが重要です。
法改正に伴う社会的なリスクとその対策
共同親権導入に伴う社会的なリスクとして、以下の点が指摘されています。
- 親子の間で争いが増える可能性: 共同親権では、親権者同士が子育てに関する意見対立を起こしやすくなり、子どもを巻き込んだ争いが増える可能性があります。
- 子どもへの負担が大きくなる可能性: 共同親権では、子どもが別居する親と頻繁に会ったり、2つの家庭を行き来したりすることになり、子どもへの負担が大きくなる可能性があります。
- 養育費問題: 共同親権では、養育費の支払い義務が双方の親に発生するため、養育費の支払いに関するトラブルが増える可能性があります。
これらのリスクに対処するためには、以下のような対策が必要と考えられます。
- 子育てに関する合意形成支援の充実: 離婚後に共同親権を選択する夫婦に対し、子育てに関する合意形成を支援する制度を充実させる必要があります。
- 子どもへの支援体制の強化: 共同親権導入に伴い、子どもへの心理的なケアやサポートを提供する体制を強化する必要があります。
- 養育費に関する制度の整備: 養育費の支払い義務を明確にし、養育費の支払いに関するトラブルを解決するための制度を整備する必要があります。